犬の洋服

ペット用品売場にずらりと並んだ犬の洋服。あまりにもたくさんの種類があり、驚いたことはありませんか?

一昔前は、Tシャツタイプぐらいしか見かけませんでした。しかし、今では人間の幼児に着せる洋服と見間違いそうな、凝ったデザインのものがたくさんあります。

年を追うごとに華やかさが増していく犬の洋服ですが、「犬に洋服を着せるのは飼い主のエゴではないか?」という意見があるものもまた事実。中には「犬に洋服を着せるのは虐待だ」というような、ドキリとする意見までも……。

しかし、犬が洋服を着ることには、実はお洒落のためだけではない、大切な役割があるのです。

防寒または暑さ対策のため

日本で暮らす犬の多くは原産国が日本ではありません。そのため、実は日本の気候風土には本来適していない犬がたくさんいるのです。

たとえば、日本よりずっと温暖な地域が原産国の犬にとって、日本の秋冬は寒すぎます。そのような種類の犬には、防寒のための洋服が欠かせません。
それは日本原産の犬達――日本犬の多くがダブルコート(下毛と上毛の二重構造)であることからも、わかるのではないでしょうか。
つまり、氷点下になることもありえる日本の冬を過ごすためには、体を保温するための毛が必要なのです。

ところがシングルコートの犬――プードルやマルチーズ、パピヨン、チワワなどなど、多くの人気犬種には、この保温のためのアンダーコートが生えていません。そのため、こういった犬種が洋服を着ているのは単なるお洒落目的にとどまらず、体を保温するためのアンダーコートの代わりとなっているのです。

その反対に、日本の気候では暑すぎる種類の犬もいます。主にはシベリアやアラスカ、カナダなどの極寒といわれる地域出身の犬達で、これらの犬達には原産地より数段気温が高い日本で暮らすうえで、防寒のための洋服は一切必要ありません。

しかし、真夏の直射日光を避けるような場合には、あえて洋服を着せることがあるのです。

この場合は洋服に保冷剤が仕込まれている、水分による気化熱を発生させて体温を上昇させないようにしているなどの、なんらかの仕掛けがされています。

逆に言えば、そのような目的以外に気温調節の意味で、寒冷地出身の犬に洋服を着せる必要はない、ということになるのかもしれません。

公共の場でのマナーを守る <抜け毛>

気温の問題をクリアする以外にも、犬に洋服を着せたほうがよい場面はあります。

たとえばアンダーコートとオーバーコートが生えているダブルコートの犬は抜け毛の量が多く、仮に毎日欠かさずにブラッシングをしていても、パラパラと抜け落ちる毛を完全に防ぐことは困難です。

そのため、公共の場所などに犬を連れていく際に、抜け毛を防止する目的で洋服を着せることがあります。

洋服を着せたとしても多少の抜け毛は落ちるでしょうが、それでも着せていない状態と比べるとその差は一目瞭然。たとえ自宅であっても犬の抜け毛は無いほうがいいわけですから、それが公共の場ともなれば言わずもがなではないでしょうか。

そのように、「マナーを守る」という意味で、犬に洋服を着せることもあるのです。もちろんマナーのための洋服は、ダブルコートの犬に限りません。シングルコートの犬にも有効ですし、小型犬から大型犬まですべての犬が活用できる洋服の使い方です。

公共の場でのマナーを守る <マーキング>

不用意なマーキング(オシッコ)を防止するために、洋服を着せることもあります。

犬は自分の陣地(自宅)以外の場所へ行くと、オシッコをすることによって自分のニオイをその場所につけ、それによって安心したいという習性を持つ生き物。そのため、飼い主が油断をしていると、してほしくないタイミングで、してほしくない場所に粗相をしてしまうことがあるのです。

これは公共の場においては明らかなマナー違反。周囲の人が不快な思いをするのはもちろんのこと、飼い主本人も居たたまれない思いをすることになってしまうでしょう。

それを防ぐためにマナーパンツと呼ばれるオムツに似た洋服を着せるのですが、最近のマナーパンツはデザイン性が良く、一見しただけでは普通の洋服にしか見えないものもあるのです。

また、マーキングという言葉の響きからオス犬だけの問題のようにとらえている人もいるようですが、これはメス犬にも同様にいえることです。足を上げてオシッコをするかしないかの違いだけで、メス犬も公共の場所で不用意にオシッコをしていいはずがありません。
もちろん、小型犬から大型犬まで、すべてのサイズの犬にあてはまることです。

レインコートの必要性

雨天の中、犬を散歩に連れ出す際にはレインコートを着用させたほうがよい場合があります。小雨程度なら被毛が湿る程度で済むかもしれません。しかし、それなりの強さの雨が降っている場合などは被毛が濡れてしまうだけでなく、道路からの泥はねにより体全体がかなり汚れてしまうことになるでしょう。

全身に泥はねがすると帰宅してからのケアが大変なのはもちろんのこと、生乾きになって蒸れてしまい、皮膚病などの原因になることがあります。

また、寒さに弱い犬種の場合は雨に濡れて体温が下がってしまうため、思わぬ体調不良の原因になることも。そういった不調を防止するうえでも、犬のレインコートは役に立つのです。

レインコートはすべての犬種が有効に使える洋服ですが、特に長毛犬にとってはメリットがたくさんあります。

傷口などの保護

手術をした犬も洋服を着ていることがあります。これは犬が傷口を気にしてなめたりいじったりさせないために必要なもので、一昔前はさらしのようなものを巻くか、エリザベスカラーと呼ばれる半円錐形状の保護具を首にとりつけていました。

しかし現在は伸縮性のあるサロペットのようなものを着せることも増えました。これにより傷口を全体的に隠すことができるため汚れがつきにくいですし、エリザベスカラーをつけられるより動きやすいため、ストレスが少なくて済むようです。

こういった傷口保護のサロペットは、皮膚病などの犬が患部をかきむしるのを防ぐためにも使えますし、塗り薬をなめさせないためにも有効です。

肘タコの予防

前足の肘の部分が地面や床などにこすれ続けていると、いつの間にか皮膚が固くなり、タコができてしまうことがあります。肘タコは体重の重い犬ほどなりやすく、小型犬にはあまり見られません。

一度タコができてしまうとその部分にはもう毛が生えてきませんので、肘を覆い隠せる洋服を着せておくことは、タコを予防するうえでとても役に立つのです。

そのため、本来は洋服を着せる必要がないはずの、寒さに強い大型犬――たとえばラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーなどが洋服を着ている場合、肘タコの予防が目的であることも多いのです。

お洒落目的の洋服にもメリットがある

なんらかの目的があって洋服を着せるのではなく、単純に愛犬を可愛く見せたいから洋服を着せている飼い主もたくさんいます。それを飼い主のエゴだと非難されてしまうわけですが、実際のところはどうなのでしょうか?

もし、洋服を着ることに犬がどうしても慣れることができず、いつまでたっても辛そうにしているのにそれでも無理矢理着せ続けていたら、それは飼い主のエゴだと言われても仕方がないのかもしれません。

しかし、洋服を着慣れた犬の場合、ストレスどころかむしろ嬉しそうにしていることも珍しくないのです。犬は飼い主の気持ちにとても敏感ですから、飼い主が洋服を着て可愛くなった愛犬を見て喜べば、犬だって嬉しいのでしょう。

その結果、犬の精神状態が安定するのだとしたら、お洒落のためだけに洋服を着せることも悪くはないのかもしれません。

犬に洋服を着せるときに注意することは?

どのような理由で愛犬に洋服を着せるにしても、注意しなければいけないことは同じです。

犬のサイズにきちんと合った洋服を選ぶ

小さすぎる洋服は動きにくいだけでなく血行や呼吸の妨げとなりますし、大きすぎる洋服は四肢や首が抜けてしまい、思わぬ事故のもとになることがあります。

装飾の位置に注意

リボンや飾りボタン、刺繍などがついている洋服は、その位置に注意しないと体を掻こうとした際に足が引っかかることがあります。それによって爪が折れたり、関節を痛めてしまうかもしれません。

素材に注意

化学繊維にアレルギーがある犬の場合、布地の種類に注意しておかないと皮膚に炎症を起こす原因になります。また、ニットのような素材は体をかく際に爪が引っかかりやすいため注意が必要です。

着せっぱなしはNG

同じ洋服を長い間着せっぱなしにしてしまうと、抜け毛やフケがどんどんたまってダニの温床となり不衛生です。その結果皮膚病やアレルギーを引き起こしてしまうかもしれません。

着脱しやすいデザインを選ぶ

着脱しやすいデザインを選ばないと、着せたり脱がせたりするさいに犬に大きなストレスをかけることがあります。強引に服から足や首を引き抜こうとすると関節を痛めてしまうかもしれません。

また、脱がせにくい洋服を着せると、どうしてもブラッシングの回数は減りがちに。衛生面から考えても着脱のしやすさは重要なポイントなのです。

愛犬が快適に過ごすための洋服選びを

野生の犬は、どんな状況であれ洋服を着る必要はないでしょう。しかし、人間社会の中で暮らす犬にとって、洋服は重要な役割を担っているのです。肝心なのは、洋服を着ることで犬が今より快適に暮らせること。

どんな洋服をどんな場面で着用させれば、愛犬は快適に過ごすことができるのか――?
このことを基準にして洋服を選んだなら、「飼い主のエゴ」などと陰口をたたかれることはなくなるのではないでしょうか。